放射能関連のニュースで、よく「ただちに健康に影響はない」と言われています。この言葉、とても曖昧でよく分からないという人が多いですよね。「ただちに影響はなくても、将来は影響があるってこと?」と思うのが当然です。でも、決して絶対将来に影響がある分けではありません。
例えば、「たばこ」を吸っているとします。 たばこは確かに体に悪いものですが、全ての人に害が現れるとは限りません。一本吸うだけならガンになることは無いですし、一週間に一本吸い続けてもまずないでしょう。それが、毎日吸っているとその危険性は高まります。さらにヘビースモーカーなら、もっとガンになるリスクは高いでしょう。でも忘れてはいけないことがあります。それは「たばこを一生ヘビーに吸い続けても、ガンにならない人も多い」ということです。
これは、たばこを吸っても良いと言っているわけではありません。もちろん体に悪いものですし、私も吸いません。要は、「量によって危険性のリスクが増えるが、それは確率の問題」ということです。「放射能」でも、それは同じことです。被曝の考え方としては2種類あります。それは「確定的影響」と「確率的影響」です。
確定的影響
「確定的影響」とは、字のごとく「確実に影響が現れる量」のことを指します。それは、大量の放射線を一気に浴びた時に起こります。そうすると、皮膚や粘膜に障害が起こり、さらに大量に浴びると脊髄障害や最悪は命を落とすこともあります。これは、放射線がDNAを傷つけてしまうため、細胞の分裂が機能しなくなってしまうからです。
確定的影響が現れる放射線の量は、およそ200ミリシーベルト以上を一度に摂取した場合だと言われています。この場合、一時的に白血球の減少が見られます。2シーベルトを一度に浴びると、約5%の人が死亡してしまいます。
先日、原発で作業員の方3名が被曝するという事故が起きました。その際に浴びた線量が、2〜3シーベルトだと報道されています。これは、確定的影響にあたります。そのため、皮膚に火傷を負うような症状になってしまいました。原発周辺で作業に当たられている方々は、この「確定的影響」を常に頭に入れながら作業をしなくてはなりません。
確率的影響
一方、原発から少し離れた地域(20km圏外くらい)から外は、「確定的影響」については考慮する必要はないと思います。離れた地域では「確率的影響」を意識することになります。
「確率的影響」とは、それこそタバコのリスクと同じような影響です。長期間経過した後に発ガンする可能性があるというように、放射線の量に応じて確率があがる影響のことです。どんなに少ない放射線を浴びても、リスクはあります。しかし、それは0.0000001%程度かもしれません。タバコを一本吸うのと同じような感覚です。
病院での検診で用いるX線などの画像検診も、この確率的影響はあります。ただ、「ガン」という面から考えると、他の理由(ピロリ菌や腸内腐敗など色々です)の方がずっと可能性が高いのです。
「ただちに健康に影響はない」とは?
1年間に私たちが自然環境の中で受ける放射線量は、世界平均で約2.4ミリシーベルトです。また、現在色々な食品の放射能汚染が報道されています。でも、今分かっている中で一番汚染度が高い「ほうれん草」を、日本人の平均摂取量の1年間あたり6kg食べ続けたとしても、体に影響があるのは10.7ミリシーベルト程度です。
この値は、確定的影響が現れる200ミリシーベルトの20分の1程度です。このぐらいの量ですと、すぐに確実に体に影響がある訳ではないので、「ただちに健康に影響はない」となるのです。何度も言ってしまいますが、タバコを10本程度いっぺんに吸っても、すぐにガンになる訳ではないのと同じですね。
ただし、「絶対に影響がない=リスク0%」ではなく、「長い目で見ると影響はあるかもしれないが、リスクは0.025%くらい高くなる」ということです。それも一度に摂取している訳ではないので、体が自然に排出する量も合わせると、さらにリスクは低いでしょう。
「ただちに健康に影響はない」とはつまり、「すぐには目に見える影響はないが、何十年後かに0.025%くらいの確率で、もしかしたら健康に影響があるかもしれない」という長い説明の短縮型なのですね。毎回このように説明すると記者会見も長くなると思いますが、それでももっと分かりやすく説明する義務があると感じています。
原発事故はとても恐ろしい事態です。それは間違いありません。しかし、「数字」だけで追うと原発事故関連で亡くなる方は、多くても年に1人です。それよりも、凶悪犯罪などで亡くなる方は100人だったり、交通事故やタバコ、自殺で命を落としてします方は数万人もいます。今、自分たちがすべきことは「確定的被曝」の危険がある作業員の方々の無事を祈ること。震災で亡くなられた1万人以上の方々を忘れないこと。今も避難生活を強いられている方々を救うこと。そして、風評被害や企業の倒産、先の見えない不安などのショックで自殺してしまう方を、少しでも多く食い止めることなのではないでしょうか。「ただちに影響がある」のはむしろ、そのような精神的な影響なのです。