細胞内では、「糖鎖」が重要な役割を果たしています。
糖鎖とは、いくつかの糖が結合した物質で、結合する糖の数は2つから数万個まであります。
腸内細菌のエサになるオリゴ糖として知られているのは、糖が10個程度結合した糖鎖のことです。そのため、一言で「オリゴ糖」と言っても糖の種類や結合の仕方で多数の種類が存在しています。
また、アミロースやグリコーゲンは、グルコースという糖をいくつも結合させて、体のエネルギー源として蓄積したものです。
この糖鎖はタンパク質や脂質とも結合して糖タンパク質や糖脂質となり生理作用を担っています。
糖タンパク質とは、タンパク質が体の中で出来上がった後に、ある種類の糖鎖が結合して作られるものです。私たち人間や、動物の細胞の表面は、こういった糖タンパク質で覆われています。
そのため、体に「糖」がなければ、私たちは細胞を維持することができません。
「糖タンパク質」や「糖脂質」はとても難しいので、今回は身近な話題で糖鎖を説明しましょう。
糖鎖は血液型を決定している
人の血液型は、よく血液型占いなどでも話題になりますし、ほとんどの方は自分の血液型をご存知だと思います。血液型には「A」「B」「AB」「O」がありますね。
そして、このABO式の血液型の違いを作っているのが、実は糖鎖の構造の違いなのです。
一つ目の図を見てください。赤血球の膜表面に存在する糖鎖によって、人の血液型のタイプは判別されるのです。
基本は6個の糖が結合した糖鎖でこれがO型(図では簡単に4つにしています)。
この基本糖鎖にA型とB型はそれぞれ異なった糖が1つ多く結合しています。これでA型とB型は区別されています。そして両方の種類の糖をもつ赤血球がAB型となるのです。
血液型によって、細菌の感染にも影響がある
大腸菌、ピロリ菌、緑膿菌、ブドウ球菌など多くの細菌は、人の糖鎖を認識して結合していることが知られています。
人の細胞の表面には、先ほどの話のように糖鎖が存在しています。この糖鎖を目指して細菌は結合しているのです。
この際の人側の糖鎖の種類の違いにより感染率に影響があるのです。また、細菌の中には自分の細胞表面の糖鎖を遺伝子変異させてヒトのタイプに似せることで、免疫機能で排除されることから逃げていることも示唆されています。
病原性菌が人の血液型特異的に結合する可能性も報告されています。
例えば2004年のScienceには、ピロリ菌が血液型抗原に付着することが発表されています。多くのピロリ菌は全ての血液型に付着性を示しますが、O型の血液型が優勢の南米から分離されたピロリ菌はO型に優勢的に感染していることが分かっています。これは南米の人の胃に感染しているピロリ菌が、O型の糖鎖に結合しやすいように変異して、O型の人への感染力が増していると考えられます。
さらに、急性胃腸炎を引き起こすノロウィルスも血液型抗原を認識することが報告されています。
そしてコレラ菌はO型の人に感染するとA、B、AB型の人よりも発症後の症状がひどくなる傾向があります。今話題になり問題視されている病原性大腸菌も、血液型依存的な感染や発症の可能性も示されています。
このように、人の細胞に存在する「糖鎖」は色々な反応に関わっている重要な構造です。
今回は病原性菌に焦点をあてた内容になりましたが、善玉菌である「乳酸菌」もABO式の血液型によって定着しやすい菌やそうでない菌がいることも発表されています。
そのあたりの話題はまた整理して掲載したいと思います。
糖はとても難しい反応を体内で担っています。それだけ重要で必須な存在だということですね。