前回のブログで、「乳酸菌は死菌でも効果に影響はない」ということを書きました。このことは、特に「免疫活性化作用」について研究されています。
まず、従来の乳酸菌(プロバイオティクス)の考え方について見ていきましょう。
【従来】
生きた乳酸菌が腸内に定着して増殖する
→腸内細菌のバランスが整う
つまり、生きた菌が「定着」することで有機酸を作り、腸を刺激して蠕動運動を活発にするという、定着することを大前提とした捉え方でした。そして、今販売されている多くのヨーグルトや乳酸菌製品が「生きたまま腸まで届く!」という謳い文句で展開されています。
しかし、腸に定着すると考えられてきた理由は、腸の細胞を実験的に用い、そのモデル細胞にくっつくということからでした。そこには、重要な要素である「腸内細菌」の影響が考慮されていませんでした。
そして、最新の研究では、前回もお話ししたように外部から摂取したプロバイオティクスは、体にとっては「非自己」と判断されて外に排出されてしまうことが分かってきました。こうした結果によって、従来の考え方は古い常識として扱われるようになってきました。
ただし、「プロバイオティクスが体に良い効果を与える」ことは、これまでの様々な実験データからも明らかです。では、定着しないにも関わらず、体に良い影響を与えるのはなぜなのでしょうか?
それは、乳酸菌やビフィズス菌の「菌体成分」自体に、腸管免疫を刺激する作用があるからです。
乳酸菌の「菌体成分」とは何か?
乳酸菌の菌体成分とは、菌を構成している成分の総称です。乳酸菌は一つの細胞からできている微生物です。その細胞は細胞膜で包まれていて、細胞膜には糖タンパク質と呼ばれるものが付いています。その細胞の中は細胞質と呼ばれる液体で満ちていて、さらにはDNAが入っている核酸などが存在します。
こうした成分を「菌体成分」と一括りで読んでます。どうして特定の成分を指さないかというと、まだどの成分が確実に関わっているかまでは明らかになっていないからです。しかし、こうした成分は、細胞が生きていようが死んでいようが変化はしないので、特別「生きている必要はない」のです。
菌体成分と免疫にどういった関連があるのか?
実は、この菌体成分のいずれかが、小腸の細胞にある「免疫に関わる受容体(レセプター)」を刺激しているのです。小腸は、食品として摂取した様々な栄養素を吸収する、体にとっては外からの成分が初めて体内に取り込まれる最前線の場所です。
その小腸には無数のヒダがあり、表面は絨毛と呼ばれる小さな突起で覆われています。そして、初めて外部から吸収される物の中に、悪いものが含まれているかどうかを判断したり排除したりするために、「免疫細胞」が集中しているのです。その数は体全体の70%もの数になります。
この小腸の細胞には、外部から侵入してきた病原菌などを認識する、色々な「受容体(レセプター)」が働いています。多くの種類のものを判別するために、その種類は10種類くらいあります。このレセプターは、病原菌に対してまず反応し、ディフェンシンという抗菌性物質を分泌します。こうして、悪い菌やウイルスの感染を未然に防いでいるのです。
乳酸菌やビフィズス菌の菌体成分が、腸管免疫を活性化する理由は、このレセプターの一つであるTLR2(トールライクレセプター2)を刺激するからです。刺激されたTLR2はディフェンシンを分泌することで、病原菌の繁殖を防いでくれるのです。
さらには、このTLR2を介して、NK細胞(ナチュラルキラー細胞)を活性化したり、アレルギー反応を抑制したりすることにも繋がっていきます。
それでは、「乳酸菌が腸内で有機酸を作って、有害菌を抑えている」や「蠕動運動を促進している」といった考え方は間違っているのでしょうか?いえ、これは正しい内容です。ただしそれは「元々私たちの腸内に住んでいる乳酸菌やビフィズス菌によって行われている」のです。つまり、自分の腸内細菌バランスを改善して、自分の善玉菌を活発にすることが大切なのです。
日頃気を付けるべきことは、乳酸菌(生菌でも死菌でもOK)を摂取しつつ、自分の腸内細菌バランスを整える「プレバイオティクス」や「バイオジェニクス」の要素を取り入れることです。
例えば、ヨーグルトや乳酸菌飲料を摂るとして、一日200mlで20億個程度の乳酸菌数になります。 この数は健康で元気な人が、それを維持するためには良いですが、体調が悪いのを改善に向かわせるのを助けたり、体質を強化するには物足りない数です。
そして、病気や体調不良には、自分の腸内細菌が深く関わっているので、そのバランスを整えることがとても重要なのです。次から、「プレバイオティクス」や「バイオジェニクス」について触れていきたいと思います。
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