みなさんは、体中に「菌」が住んでいる事をご存知でしょうか?口、皮膚、膣、そして腸に至るまで、数えきれないくらいの「菌」と一緒に暮らしています。
数年前までは、私たちのお腹には「100種類100兆個」の「腸内細菌」が住んでいると言われてきました。しかし、ここ2年くらいの間に、微生物を探す技術が飛躍的に進歩し、なんとその10倍の1000種類1000兆個の腸内細菌が住んでいる事が分かってきたのです。
普段、「微生物の重さ」なんて意識する事はありませんよね。でも、この腸内細菌をまとめると、なんと1.5kgにもなるのです。体重60kgの人は、そのうち1.5kgが「菌」の重さなのです。私たちの体は、60兆個の細胞でできていますから、それよりも遥かに多い数の「菌」が住んでいるのです。それでは、こんなにたくさんの腸内細菌は、一体なぜ住んでいるのでしょうか。
腸内細菌は人体最大の「新しい臓器」
私たちの体では、自分で作る事ができる栄養素が限られています。例えばビタミンは、ほとんど体の中で作ることができません。そのため、食事やお肉から摂取する必要があります。腸内細菌は、こうした人間が作れない種類のアミノ酸やビタミン、その他色々な栄養素を作ってくれるのです。
また、近年、腸内細菌がいなければ「免疫機能」も働かないことが明らかになっています。研究手法として、腸内細菌のいない「腸内無菌マウス(ネズミ)」を作ることができます。この無菌マウスでは、驚く事に免疫反応が起きない事が分かっています。また、免疫に関わる遺伝子やタンパク質も、腸内には存在しません(存在しないというか働いていません)。
この無菌マウスに、少しずつビフィズス菌や乳酸菌を口から加えていくと、それに従って免疫遺伝子が現れてきます。面白い事に、普段「悪玉菌」として嫌われている大腸菌や、クロストリジウム菌も、加えていくと新しい免疫遺伝子が現れてきます。
これは、普段悪玉菌と言われている菌も、実は「免疫機能が働くスイッチ」になっていることを示しているのです。
腸内細菌は、肝臓にも匹敵するくらいの膨大な仕事を体の中で行っています。このように、体にとって欠かせない「腸内細菌」は、「新しい臓器」として考えられるようになりました。
最先端の研究は「腸内細菌を集団として考えている」
2010年11月25日号の世界的な研究雑誌である「Nature」に、とてもおもしろい記事が掲載されました。タイトルは「The new germ theory」。日本語では「新・細菌論」と訳せます。つい数年前までは、腸内環境を整えるためには1つの乳酸菌やビフィズス菌を食べれば良いと考えられていました。そして、ヨーグルトにたくさんの乳酸菌を入れたり、粉末で1種類の乳酸菌やビフィズス菌をサプリメントで食べたりという商品が出ています。この考え方は、今も多くの人が言っていますし、病院でも「整腸剤」として乳酸菌粉末が処方されています。
でも、この「Nature」の記事では、『1種類の菌だけ摂っても体には定着しない。そうではなくて、腸内細菌を集合体として考えなければならない』と伝えています。例えばアレルギーや喘息、クローン病や自閉症など、腸の乱れによっておこる病気は、1000種類いる腸内細菌のバランスが乱れる事によって発症している可能性があります。その時に、1種類の菌だけを大量に体に摂っても、根本的な改善にはならないのです。
腸内細菌は、1億人いれば1億パターンあると言われています。あなたと、隣の人の腸内細菌は同じではないのです。顔や性格のように、腸内細菌も「十人十色」ですね。
1つの機能性成分や1つの有用菌を口から摂っただけでは、腸内細菌のバランスは良くなりません。むしろ、ある特定の菌だけが強くなると、「臓器」としての機能を乱してしまうのです。要するに、1000種類もいる腸内細菌のバランスを、どうやって整えるかが大切なポイントなのです。
「生きた乳酸菌を摂ること」「死んだ乳酸菌でも大丈夫なこと」「腸内細菌にエサを与えること」「バランスの良い食生活」「自律神経を整えること」など、色々なポイントがあります。
次回から、そういったポイントについて書きたいと思います。