抗生物質とは、微生物によって生産される化学物質のことです。
他の微生物を殺したりその増殖を抑制することができます。商業用に利用されている抗生物質は、主に糸状菌類と放線菌類の細菌から生産されています。現在知られている抗生物質は8000種類以上もあり、厳密なテストをクリアした種類のみが医学的に認められて利用されています。
抗生物質は第2次世界大戦では兵士の治療に効果があったため「魔法の弾丸」と呼ばれていたこともありました。
抗生物質にはどのような種類があるの?
有名な抗生物質に「ペニシリン」という名前のものがあります。
1928年にイギリスの化学者フレミングによって発見されました。ペニシリンはアミノ酸を利用して、アオカビ(Penicillium)によって産生される。
実用化されたペニシリンは、その優れた抗菌力で肺炎、敗血症、化膿性疾患などの細菌感染症に高い有効性を示し、長い間世界に革命的な効果をもたらした。
一つの抗生物質が全ての病原性菌に対して効果があるわけではありません。
抗生物質はβ-ラクタム系、テトラサイクリン系、クロラムフェニコール系などいくつかのグループに分けられ、それぞれ抗菌性を発揮する対象の微生物は異なります。
また、抗菌性を発揮する微生物の数が多い抗生物質にメチシリンやバンコマイシンがあります。
抗生物質を多用すると、抗生物質耐性菌が生まれる
抗生物質は医療に革命的な効果をもたらした反面、薬剤耐性菌を作り出してしまいました。
ペニシリン耐性菌が登場し、それに対抗してメチシリンが開発されました。しかしメチシリン耐性菌が登場し、今度はバンコマイシンを使用するように。そしてバンコマイシン耐性菌が登場し、人類と耐性菌は終わりないいたちごっこを今もなお続けているのです。
世界保健機関(WHO)によると、2011年5月7日現在、ほとんどの抗生物質が効かない多剤耐性菌の感染による死者が、欧米諸国だけで少なくとも年間8万8千人に上るとの統計を発表しました。
統計が得られない途上国の死者はこれをはるかに上回ると見られており、WHOはその対策強化を目指しています。
医療機関ですぐに風邪に対して抗生物質を処方されますが大丈夫?
風邪はウイルスの感染症であり、細菌を殺す抗菌剤である抗生物質は風邪の治療には効果がありません。
抗生物質を投与することで他の細菌に対する合併症を予防するという名目がありますが、これも根拠がなく、風邪への抗生物質処方を控えるべきというガイドラインもあります。
重篤な患者に対する抗生物質処方はもちろん重要です。
抗生物質が人類の延命に大きな役割を果たしていることは疑いありません。
しかし、抗生物質は腸内細菌のうち善玉菌までも殺してしまうのです。実際に抗生物質投与後は、腸内細菌バランスが大きく乱れることが分かっています。安易な判断による投与は、逆に大きく体調を崩してしまいかねません。
途上国での抗生物質利用の状況は危険な水準にあります
中国では年間約20万人が薬物の不良反応によって死亡しています。この中の4割は抗生物質の乱用による死亡とみられているのです。入院患者の抗生物質使用率は7割で、この中の8割以上が抗生物質を乱用した治療と考えられています。
中国の抗生物質の生産量は約15万トン、そのうち輸出量は2万5千トンでともに世界一。
さらに、1人あたりの年間抗生物質消費量は138グラムで、米国の約10倍に達しています。
中国での入院患者のうち実際に抗生物質による治療が必要な患者は2割程度ですが、その使用率は欧米の約2倍にあたる7割にも達していると言われています。
途上国では抗生物質に対する危険性の認識が甘く、一般市民が風邪や発熱、頭痛など症状に関係なく自己判断で抗生物質を「万能薬」と見なして使用しています。
その他、医療費が高く安価に手に入る非処方の抗生物質に手を出してしまうといった側面も考えられます。
また、医療機関では利益追求主義によって、必要ない患者にも処方を繰り返しているのも実情です。こうした現状が多剤耐性菌出現の温床になっているのです。
抗生物質「アンチバイオティクス」に対して提唱されているのが「プロバイオティクス」です。
抗生物質の使用用途や処方量をしっかりと管理し、乳酸菌などのプロバイオティクス、さらに腸内細菌を整えるプレバイオティクスで善玉菌を増やすことがとても大切です。
アンチバイオティクスもプロバイオティクスも、結局はどちらも微生物による作用であり、その恩恵を受け続けることになります。
そのためにも、微生物を支配するのではなく、共存や共生をきっちりと考えていくことが必要です。