4月になって、ようやく春らしい気温になってきました。それでも「今年は桜が咲くのが遅いなぁ」と感じている方も多いのではないでしょうか。昨日岡山の後楽園に行って、桜を少し見てきましたが、やっぱりまだ2分咲きくらいでした。
そんな季節の中、「桜はなぜ春に咲くのか」について考えたことがありますか?実は私も、「桜=春」というのを当然のように考えていました。でも、ふと疑問に思ったので調べてみると、すごくコントロールされた、生物のメカニズムがあることが分かったのです。
ただ暖かいだけでは桜は咲かない!
桜は春に咲いて散った後、葉の付け根に腋芽(えきが)という小さい芽を作ります。この腋芽は次の年に咲くための最初の支度です。それから7月くらいまでに、腋芽は分化して、花になる花芽(かが)と葉になる葉芽(ようが)になります。このうちの花芽がおよそ10月ころまでに花弁などを作って蕾(つぼみ)の元になるものが整っていきます。ここまでで、本当は桜はいつでも咲ける準備が整っているのです。それなのに春まで咲かないのは、桜の木が厳しい冬を乗り越えるために、自分自身である物質を作っているからなのです。
そのある物質とは「成長抑制ホルモン」です。 この成長抑制ホルモンが葉に作られ、これが花芽に移動します。そこで葉は役目を終えるため、落葉します。その後、芽は冬の寒さを乗り越えるため、鱗片(りんぺん)で保護されて休眠状態になります。この休眠から目覚めるためには、ある条件が整う必要があるのです。それは、「2℃〜12℃の気温にさらされること」なのです。
休眠からの目覚めは1℃以下では起きません。この2℃〜12℃という気温が絶対条件なのです。この温度になると成長抑制ホルモンが壊されて、徐々に減少します。そして、だいたい1月下旬には休眠が解けるのです。その後は春を迎えて暖かくなるとグングン成長し、およそ一日の平均気温が12℃〜13℃になると開花し始めると言われます。目覚めた花芽は春の気温の上昇に伴って、ちょうど良い時期に開花するのです。
統計的には、寒さが厳しい年ほど暖かくなってくるとすぐに桜が開花するそうです。そのため、1月2月が暖冬だと、いくら3月上旬が暖かくても開花は遅くなってしまいます。逆に、開花にはある程度の気温の上昇が必要なので、3月が寒いと開花も遅くなります。これが、「桜が春に咲く」メカニズムです。
狂い咲きには2つの条件が必要
桜が春に咲くのは通説ですが、時に秋や暖かい冬に「狂い咲き」をしてしまう場合があります。これには2つの条件が関わっています。一つは、台風や異常感想などで大事な葉がなくなってしまい、「成長抑制ホルモン」が花芽に届かないこと。ただ、これだけでは花芽はそのまま冬を越すので大丈夫です。そこで二つ目の条件が関わってきます。それは、想定外の暖かさがやってくることです。成長抑制ホルモンが花芽に届かず、さらに異常な暖かさがくると、花芽は「もう春がやってきた」と勘違いして秋や冬場に「狂い咲き」をしてしまうのです。
桜の葉の抗菌性を利用した「桜餅」
余談なのですが、桜の葉には「フィトンチッド」という物質があります。このフィトンチッドは、とても抗菌性に優れていることが知られています。「桜」と付く名の食べ物に、「桜餅」があります。この桜餅を包んでいる桜の葉は、「大島桜」の葉です。大島桜の葉には、特に多くのフィトンチッドが含まれています。桜餅の葉は、塩漬けにして発酵させていて、発酵させることで今度は「クマリン」という香りの元になる成分が生み出されます。こうして発酵させた桜餅の葉は、抗菌性にも優れ、さらに香り高い桜餅独有の風味を作り出しているのです。
こうした植物の開花や成長の仕組みは、桜に限ったことではありません。どんな植物にも成長ホルモンや抑制ホルモン、開花ホルモンなど様々な高度にコントロールされたメカニズムがあるのです。こうした生物の季節特有の現象や成長度合いを注意深く見ることで、温暖化や気候の変化にすぐに気付くこともできます。
春の桜の素晴らしさを目や心で感じるとともに、それを一年間見続けると普段気付けない変化や空気に触れることができるかもしれませんね。